— 発達特性に合った関わりとママの心を守る子育て術 —
はじめに:その「しつけがなってない」の一言に、どれだけ傷ついたか
「ちゃんとしつけてるの?」「親の顔が見てみたい」 そんな言葉を、どこかで耳にしたことはありませんか?
発達特性のある子どもを育てているママにとって、その一言は鋭く心に突き刺さります。 頑張っても、工夫しても、伝わらないことがある。 それを「しつけがなってない」と決めつけられるのは、どれほど苦しいことでしょうか。
本記事では、「しつけ=叱ること」ではないという視点から、発達特性のある子どもとの関わり方について、発達心理学・ABA・特別支援教育の専門的な視点をもとに解説していきます。
1. 「しつけができていない」と言われやすい子どもの特徴
1-1. 癇癪・暴言・指示が通らない・列に並べない…それは本当に「わがまま」?
お店で大声で泣き叫ぶ。 公園でお友達に乱暴してしまう。 並ぶことができず、行事で混乱してしまう。
こうした行動を見た周囲の大人は、 「親のしつけがなってない」と決めつけがちです。 でも、本当にそうでしょうか?
実はこれらの行動には、 **発達の特性からくる“苦手さ”**が隠れていることがよくあります。
- 癇癪:感情のコントロールが未熟、感覚過敏や予測困難が背景にあることも
- 暴言:うまく言葉で伝えられない、衝動性の高さから思わず出てしまう
- 指示が通らない:耳での情報処理が難しく、そもそも聞き取れていない可能性
- 列に並べない:順番を待つ・身体を止める・先を見通すことが難しい
これらは“わがまま”ではなく、“発達のつまずき”です。 子ども自身が「困っている」のです。
1-2. 発達障害/グレーゾーンの子どもによく見られる行動とその理由
発達障害やグレーゾーンと呼ばれる子どもたちは、外見上は“普通”に見えることが多いため、誤解されやすい存在です。
でも実際には、以下のような特性を持つことがあります。
- ASD(自閉スペクトラム症):
- 見通しが立たないと不安でパニックになる
- 自分ルールへのこだわりが強く、融通がきかない
- 集団の中で何をすべきか分からずフリーズする
- ADHD(注意欠如・多動症):
- 衝動的に動いてしまう(“ダメ”と分かっていても止められない)
- 注意が散りやすく、一つのことに集中できない
- 説明の途中で席を立つ、話に割り込む
- LD(学習障害):
- 指示を聞き取って理解することが難しい(聴覚情報処理)
- 書くこと・読むことに著しい困難があり、「やりたくない」と避けがち
これらの行動は、ママのせいではなく、“脳の特性”に由来するものです。
子どもが「できない理由」を知らないまま、「できないこと」を叱られ続けると、自己肯定感はどんどん下がってしまいます。
「しつけ=叱る」でなんとかなる子と、 「しつけ=支援しながら育てる」が必要な子がいるのです。
次の章では、子どもの“困った行動”の裏側にある「本当の理由」を、行動分析の視点からひもといていきます。
1-3.「叱っても直らない」は親のせいじゃない
「何度言っても直らない」「叱ってもきかない」——。 こうした悩みは、発達に困りごとのあるお子さんを育てているママたちから、非常によく聞かれます。
でもそれは、「ママのしつけが甘いから」でも「親としての努力が足りないから」でもありません。
発達特性のある子どもにとって、「叱る」という方法そのものが、適切な伝え方になっていないことが多いのです。
なぜ叱っても変わらないのか?
叱ることは、「やってはいけないこと」を知らせる方法のひとつです。 でも発達障害やグレーゾーンの子どもたちには、以下の理由でその方法が伝わりづらいことがあります。
- 叱られても**“なぜダメなのか”が理解できない**
- 強い言い方や大きな声が、脅しや恐怖になって萎縮する
- 感情が先に立ってしまい、言葉の意味が届かない
- 自分の失敗や不適切な行動を、振り返る視点を持つことが難しい
つまり、「叱られても、そこから“何を学べばいいか”がわからない」状態なのです。
これを知らずに、繰り返し叱ってしまうと、親も子どももつらくなってしまいます。
叱るよりも「できた!」を増やす関わりへ
子どもに行動を変えてほしいなら、「ダメなことをやめさせる」のではなく、 **「やってほしい行動を教えて育てる」**という視点が重要になります。
例えば、
- 「叩かない!」と叱る代わりに「困ったときは“やめて”って言おうね」
- 「走らない!」と怒鳴る代わりに「歩こうね」「ゆっくりね」と伝える
こうした声かけが、「どうすればいいのか」を子どもに教えることになります。
また、発達障害の子は、**できたことに対する肯定的なフィードバック(ほめる・認める)**があって初めて、行動が定着しやすくなります。
叱るのではなく、できたことを見つけて伝える。 それが、子どもとママ、どちらもラクになれる大切な関わり方なのです。
「叱っても通じない」ことに、ママが深く悩んでしまうのは、 「それは親の努力不足」と感じさせられる社会の空気があるからかもしれません。
でも本当は、伝わる方法がちがうだけ。
ママが「しつけの正しさ」ではなく、「子どもに合った伝え方」に目を向けることで、 その子の可能性はグンと広がっていきます。
どうか自分を責めず、まずは伝え方を一緒に見直していきましょう。
2. 発達心理学と特別支援教育から見る「行動の理由」
子どもの困った行動の背景には、必ず“理由”があります。
たとえそれが、
- 床に寝転んで泣き叫ぶ
- 友達に手を出す
- 何度言っても同じミスをする
といった、いわゆる“問題行動”であっても、 その行動の奥には、子どもなりのメッセージやニーズが隠れています。
ここでは、行動の背景にある理由を「行動分析(ABA)」や「発達心理学」の観点から紐解き、どう関わるとよいかを考えていきましょう。
2-1. 行動には必ず“意味”がある(行動分析の4つの機能)
行動分析では、すべての行動には「機能=目的」があると考えます。
その目的は、大きく以下の4つに分けられます。
① 注目を集めるため
- 大人に構ってもらいたい
- 周囲の反応を引き出したい
- 叱られても“注目”されていることが目的
② 物や活動を得るため
- 欲しいものがある(お菓子・おもちゃなど)
- やりたいことがある(動画を観たい・遊びを続けたい)
③ 嫌なことから逃れるため
- 苦手な活動(宿題・片付けなど)を避けたい
- 人との関わりを回避したい
④ 感覚を満たすため
- 特定の音や動きを楽しんでいる
- 手を振る、ジャンプする、同じ言葉を繰り返すなど
例えば、子どもが「わーっ!」と大声を出すとき、 その裏には「注目を引きたい」「感覚的に気持ちいい」といった理由があるかもしれません。
つまり、行動そのものに意味があるのではなく、“行動の目的”を見ていくことが重要なのです。
2-2. 子どもは「困らせようとしている」わけじゃない
子どもが何度言っても同じことをしたり、場に合わない行動をするのは、 「親や先生を困らせたいから」ではありません。
ただ単に、
- どうしていいか分からない
- 自分をうまくコントロールできない
- 特性として切り替えや感情調整が難しい
といった**“できなさ”や“わからなさ”**が背景にあることが多いのです。
親が「どうしてこんなことを…」と感じたときこそ、 「何を伝えたかったのか?」「どんなことが苦しかったのか?」という “行動の奥にある気持ち”に目を向けてみることが大切です。
2-3. 「何を学べばよいか」が分からない子に、“罰”は届かない
発達に特性のある子どもは、
- 自分の行動がどう影響したかを振り返る力(メタ認知)が育ちにくい
- 抽象的な言葉で注意されても理解が難しい
- 言葉で反省を促されても、行動につながらない
というケースが多く見られます。
そのため、「罰を与える」「厳しく叱る」という関わりでは、 子どもが“何をすればよいのか”がわからず、ただ萎縮して終わってしまうことも。
私たちが目指すべきは、 ❌ 「ダメなことをやめさせる」 ではなく、 ⭕ 「どう行動すればいいのかを、わかりやすく伝えて、経験させていく」 ことです。
行動の“機能”に注目し、背景を理解することで、 子どもとの関わり方は大きく変わっていきます。
「どうしてこんな行動をするの?」ではなく、 「この行動にはどんな意味があるのかな?」 という視点に変えてみる。
それだけで、ママの見える景色が変わり、 「叱らなきゃ」が「支援しよう」に変わっていきます。
そしてその瞬間から、 “しつけ”ではない愛し方が始まります。
3. 叱るより効く!発達特性に合わせた伝え方のコツ
「何度言っても伝わらない」「毎日同じことで叱っている」 そんな繰り返しに、疲れてしまっていませんか?
実は、発達特性のある子どもには、“叱る”よりも効果的な伝え方があります。 それは、**子どもの認知特性や発達段階に合わせた「伝え方の工夫」**です。
ここでは、特別支援教育の現場やABA(応用行動分析)に基づいた、 伝わりやすくなる声かけ・指示の出し方をご紹介します。
3-1. 否定語よりも「やるべきこと」を具体的に伝える
「走らないで!」より「歩こうね」 「触っちゃダメ!」より「おひざで待とうね」
否定語は、脳にとって「結局どうすればいいのか」が分かりにくくなります。 とくに発達特性のある子どもは、抽象的な言葉の理解が苦手な傾向があり、 「何が正解か」がわからず混乱してしまうことも。
✅ できるだけ肯定文で伝える ✅ 行動のゴールが具体的にわかる言葉にする
これだけでも、伝わり方が大きく変わります。
3-2. 指示は短く・視覚化して・1つずつ
発達特性のある子どもは、
- 一度にたくさんの情報を処理するのが苦手
- 音だけの情報を記憶するのが難しい
といった特徴があるため、
✅ 短く・わかりやすい言葉にする ✅ 「見てわかる」形で提示する(絵カード、スケジュール表など) ✅ 指示は1つずつ、段階を分けて伝える
ことが効果的です。
たとえば、 ❌「カバン置いて、靴脱いで、手を洗ってからごはんよ」 ではなく、 ⭕「まずカバンを置こうね(絵カードを見せながら)」 というように、段階的に伝えることで、子ども自身が見通しを持ちやすくなります。
3-3. 「今どこでつまずいているか」を見極める視点
言われたことができない=やる気がない、わざと、ではありません。
多くの場合、
- 指示が難しかった
- 段取りが分からなかった
- そもそも理解していなかった
- 前の課題で疲れていた
など、何かしらの“つまずき”があります。
そこで重要なのは、 ✅ 「この子は今、どこで止まってるのかな?」 ✅ 「どうしたら進めるかな?」 といった、“問題行動を見る”のではなく“支援のポイントを探す”視点です。
叱る前に、「うまくいかない理由」に気づいてあげられると、 ママも子どももグッと楽になります。
4. ママの“困り感”がぐっと減る!行動を育てる関わり方
「どうしたらこの子の行動が落ち着くのか」
「毎日怒ってばかりで、もう疲れた…」
そんなママたちにこそ知ってほしいのが、
“行動を育てる”という視点です。
発達特性のある子どもは、「やらない」のではなく、
「やり方がわからない」「どう行動すればいいか、経験が足りない」というだけのことが多くあります。
この章では、発達支援の中核ともいえる
ABA(応用行動分析)やペアレントトレーニングの考え方をもとに、
日常で使える関わり方をご紹介します。
4-1. ABA・ペアレントトレーニングで大切にされる考え方
ABAやペアレントトレーニングでは、行動を改善するために
「罰する」よりも「行動を育てる」関わり方を重視します。
✔ できている行動を強化する
うまくできたときにしっかり褒めることで、その行動が増えやすくなる。
✔ 小さな成功体験を積ませる
完璧を求めるのではなく、「ちょっとできた」を見つけて肯定する。
✔ “できなかった”より、“できた”を見つける
叱るよりも、「どうしたらうまくいくか」を一緒に考える。
たとえば、
「また癇癪を起こした…」という場面でも、
「前より泣く時間が短くなった」
「叩かずに、言葉で言えた」
など、小さな変化を肯定的にとらえることがとても大切です。
4-2. ごほうび・声かけ・ルール設定のコツ
🔸 ごほうびは「ごほうびっぽく」!
ごほうび=物、と思われがちですが、
- ママとハグできる
- 一緒に好きな絵本を読む
- 自分でシールを選べる
など、感情的な満足感を満たすことがポイントです。
「行動の直後に、好きなことを経験できる」と、
子どもはその行動をまたやろうとします。
🔸 声かけは「できた!」を引き出すチャンス
「ちゃんと座れたね!」「お話きけてたよ!」と、
行動を具体的に伝えてあげると、子ども自身が成功を実感しやすくなります。
褒め方のコツは、
- 「うれしいな、ありがとう!」と気持ちを伝える
- 「◯◯ができたね!」と行動を具体的に言葉にする
- 子どもの目線に合わせて言葉を届ける
🔸 ルールは「守りやすいルール」を設定する
「静かにする」「走らない」など抽象的な言葉ではなく、
「口はチャック」「おててはおひざ」など、
行動で表せる具体的なルールが効果的です。
あいまいなルールほど、叱る回数が増えてしまいます。
ママと子どもの間で「どんな行動がOKか」が共有されているだけで、
安心感と自信が生まれます。
4-3. 「スモールステップ」と「スモールサクセス」がカギ
発達特性のある子どもにとって、
いきなり“最終ゴール”を求められることはとても負担になります。
たとえば「給食を全部食べよう」ではなく、
- 「まずは一口だけチャレンジ」
- 「匂いをかげたらOK」
- 「机に出すだけでも成功!」
というように、行動のハードルをぐっと下げることが重要です。
それが「スモールステップ」。
さらに、1つ達成するごとに
「できたね!」「昨日よりすごいね!」と
ママが喜びを共有することが「スモールサクセス」です。
この小さな成功体験の積み重ねが、
「やればできる」「自分は大丈夫」という自己効力感につながります。
🍀 しつけではなく、“支援”という愛し方を
ここまでの関わり方を読んで、
「それって甘やかしなんじゃ…?」と思った方もいるかもしれません。
でも違います。
特性に合わせた支援は、“しつけの代わり”ではなく、“その子にとって必要な育ちの手助け”です。
「しつけがなってない」と言われたあの日、あなたは傷ついたかもしれません。
けれど、行動には理由があると知った今、
その言葉に真正面からこう返すことができるようになります。
「うちの子には、“合った育て方”をしています。」
その関わりは、**しつけを超えた「支援という愛し方」**なのです。
5. よくある誤解とママを悩ませる言葉たち
子育てをしていると、周囲から心ない言葉をかけられることがあります。
特に発達に特性のある子どもを育てているママは、 その子の特性ゆえに起こる行動を「しつけのせい」にされやすく、 深く傷つく経験をしている方も少なくありません。
この章では、よくある誤解や言葉に対して、 専門的な視点からどう考えればよいか、 そしてママの心を守るための考え方をお伝えします。
5-1. 「甘やかしてるだけでしょ」→ 実は“脳の苦手”を補っているだけ
「そんなに手をかけてたら、甘やかしになるよ」 「もっと厳しくしないとダメじゃない?」
そんな言葉、かけられたことはありませんか?
でも実際には、**発達特性のある子どもは、 「自力でできるようになるまでに時間がかかる」**だけのこと。
支援が必要なのは、“わがまま”だからではなく、 脳の特性として「苦手な部分」があるからなのです。
たとえば、
- 感覚過敏で「音や触覚」がストレスになりやすい子
- 注意の切り替えや、気持ちのコントロールが苦手な子
- 言葉の理解が遅れやすい子
こうした特性があると、 一般的な「しつけ」だけでは行動を変えるのが難しくなります。
**“手をかける”ことは甘やかしではなく、 子どもが成長するための“適切な環境調整”**です。
5-2. 「放っておいたらそのうちできるよ」→ “放っておいても学べない子”がいる
「そのうちできるようになるから、あまり気にしないで」 「小学生になれば落ち着くって」
そう言われて、 「じゃあ、私は過敏になりすぎてるのかな?」と 不安になったことはありませんか?
もちろん、成長とともに自然にできるようになることもあります。
でも、発達障害やグレーゾーンの子どもには、 “放っておいても学べないスキル”があるのです。
たとえば、
- 「順番を待つ」「我慢する」といった自制の力
- 「相手の気持ちを想像する」といった共感性
- 「今はやらない」という判断をする実行機能
こうしたスキルは、 適切な支援や経験の積み重ねがあってこそ育ちます。
「待っていれば勝手に育つ」わけではないからこそ、 私たち大人が“今ここでできる支援”が大切なのです。
5-3. 「普通の子だってそうだよ」→ でも“普通”の基準が合わない子がいる
「うちの子もそうだったよ」 「どこの子も癇癪くらいあるよね」
そんな風に言われると、 「うちの子だけ特別じゃないのかも」と思えて安心する一方で、 「でも、やっぱり何か違う気がする…」と モヤモヤが残ることもあるのではないでしょうか?
確かに、“困った行動”そのものは、 どの子にも起こる可能性があります。
でも、頻度や強度、きっかけの多さ、回復までの時間などを含めて考えると、 発達に特性のある子の行動には、 「“普通”の子と同じ対応ではうまくいかない」特徴があります。
たとえば、
- 小さなことでパニックになりやすい
- 叱られると激しく自傷や他害に向かってしまう
- 同じ環境にいても、圧倒的に疲れやすい
「普通の子と一緒」とひとくくりにせず、 その子の“特性”に合ったアプローチを考えることが、 その子自身を尊重することにつながるのです。
💬 正論で返せるママになる第一歩は、“背景を知る”ことから
「しつけがなってない」と言われて、 ツラくなったママへ、伝えたいことがあります。
それは、 “しつけ”と“支援”は違うということを、ママ自身が理解しておくことが、 周囲の言葉に振り回されず、子どもを守る強さになるということ。
この章を読んで、 「しつけができてないのではなく、 この子には“学び方の違い”があるんだ」と理解できたなら、 あなたはもう、立派にその子に合った支援をしているママです。
「普通の子ならできる」を基準にするのではなく、 「この子にとっての一歩」を見つけていく。
それが、“しつけじゃない子育て”=“支援という愛し方”です。
そしてあなたは、その一歩を、今日もちゃんと歩んでいます。
次の章では、「ママの心を守る」ための、対人関係の工夫についてお話しします。
6. ママの心を守る!人間関係の境界線と対処法
子育ては、たったひとりではできません。 だからこそ、周囲との関係の中で、 たくさんの影響を受けながら日々が進んでいきます。
しかしその「周囲の声」が、 時にママの心を深く傷つけてしまうことがあります。
この章では、園や学校・親族・ママ友といった “近くの誰か”との関係に悩むママが、 少しでもラクになれる視点と対処法をお届けします。
6-1. 園や学校・親族・ママ友からの心ない一言にどう向き合うか
「しつけがなってないんじゃない?」 「もっと厳しくした方がいいんじゃない?」 「最近のお母さんは甘すぎる」
こうした言葉を投げかけてくるのは、 決して“悪意のある人”ばかりではありません。
むしろ多くは、 “その人なりの正義”や“自分の価値観”からくるアドバイスです。
でも、その「正しさ」が、 今目の前にいるママや子どもを傷つけてしまうこともある。
そんな時に必要なのは、 **「意見と感情を切り分けて聞く力」**と、 **「必要なら距離をとる勇気」**です。
たとえば、
- 相手の言葉にすぐに返答しない
- 感情的にならず「そうなんですね」と一旦受け流す
- 本音は信頼できる人にだけ話す
また、必要なら園や学校にも相談し、 「本人や家庭の方針として支援している」と伝えておくことも有効です。
6-2. 共感されない孤独感と、その乗り越え方
「誰にもわかってもらえない」 「同じ年頃の子のママと話しても、話が合わない」
そんな孤独感を感じているママも多いかもしれません。
でもそれは、 あなたが“間違っている”からではありません。
ただ、今のあなたの経験や悩みが、 他の人には見えにくく、想像しにくいだけなのです。
だからこそ、
- 同じような子育てをしているママのブログやSNSを見る
- 専門職(相談支援員、スクールカウンセラーなど)に話す
- 発達支援系のコミュニティやLINEグループに入ってみる
といった「共感ベースのつながり」を持つことが、 心の支えになります。
6-3. 「わかってくれる人」とつながる重要性
発達特性のある子どもを育てていると、 情報も、支援も、共感も、“受け手”が限られるように感じることがあります。
でも実は、 「わかってくれる人」って、世の中にたくさんいます。
- 同じような悩みを経験してきたママたち
- 日々、子どもと向き合っている保育士や先生
- 特性理解に取り組む医療・福祉・教育の専門職
そういう人たちとつながっていくことで、 ママの心は、少しずつ軽くなっていきます。
あなたの悩みや想いを、 「わかるよ」と受け止めてくれる人が、 必ずどこかにいます。
だからどうか、 「一人でがんばらなきゃ」と思わないでください。
次の章では、実際に子どもの行動が変わった成功事例をご紹介します。
7. 子どもの行動が変わった!成功事例から学ぶ支援のヒント
子育ての中で、「このままでいいのかな…」「本当に変わる日がくるの?」と、不安に押しつぶされそうになることはありませんか?
でも実際には、子どもたちは小さなステップでも確実に変化し、成長していきます。
この章では、発達特性のある子どもに対してペアレントトレーニングやABA的な関わりを取り入れたことで、 実際にママたちが感じた“変化”や“希望”について、具体的な事例とともにご紹介します。
7-1. 家庭でのペアトレ導入例
Case1:癇癪が続いていたAくん(年長・男児)
Aくんは気持ちの切り替えがとても苦手で、 朝の着替えや登園準備で癇癪を起こすことが日常的でした。
「何度言ってもダメで…」と疲弊していたママが取り入れたのは、 ペアレントトレーニングで学んだ「スモールステップ」と「視覚支援」。
- 朝の支度を3ステップに分けてイラスト化
- 1つできるたびにシールを貼って「やったね!」と声かけ
- 完了したら好きなシール帳タイムを設定
\1週間後には「今日は自分でやる!」と自発的に動くように/
「できた体験」を重ねることで、Aくんの自信もママの安心感もグッと増したそうです。
7-2. きょうだい・園・学校との連携成功例
Case2:きょうだい関係で悩んでいたBさん(小2・女児)
妹とのトラブルが絶えなかったBさんは、 「ママが妹ばかりかまう」と感じていた様子。
そこで取り組んだのは「先に注目する」関わり方。
- 朝の準備ができたらすぐに「ありがとう!助かる〜」と声かけ
- 妹と同じ空間にいるときは、Bさんの頑張りを意識して言葉にする
- 一人時間の「ママとの読み聞かせタイム」を毎日5分だけ確保
\3週間後には、妹に自分から絵本を読んであげる姿も/
「先に注目してもらえると安心するんだなと気づきました」とママ。
家庭内の空気が変わるだけで、子ども同士の関係も変化していくのです。
Case3:学校でのトラブルが続いたCくん(小3・男児)
感情のコントロールが難しく、 友達とのトラブルが続いていたCくん。
支援級の担任と連携して、家庭と学校の両面から取り組んだことは:
- 「怒ったときに使える選択肢カード」を作成
- 担任も家でも、同じ言葉かけで「切り替えの儀式」を統一
- 放課後に「その日できたことメモ」を交換
\2か月後、「怒っても落ち着ける」成功体験が増加/
「どちらか一方だけじゃなく、家庭と学校が“同じ方向を見て動いた”ことが効果的でした」と担任。
💡共通して大切だったことは?
すべての事例に共通していたのは、
- 子ども自身の“できる”を見つけて育てたこと
- ママが「今のこの子に合った関わり方」を学び、試したこと
- 完璧を目指さず、「昨日よりちょっと前進」を喜んだこと
「すぐには変わらなくても、必ず光が見えてくる」
それを、これらの事例が教えてくれます。
次章では、そんな子どもと向き合うママ自身の心のケアについてお話しします。
8. ママ自身の“がんばりすぎ”に気づいてあげて
発達特性のある子どもを育てるというのは、 見えない努力や心の葛藤の連続です。
ときには「私はちゃんとできているのかな」「もっと頑張らなきゃ」と、 自分を責めてしまうママも少なくありません。
でも本当に必要なのは、**ママが自分自身にも“やさしくなること”**です。
この章では、ママ自身の心を守る視点とケアの方法についてお伝えします。
8-1. ママが自分を責めないために必要な視点
「何度言ってもできない」「また怒ってしまった」
そんな日々の中で、真面目なママほど 「私のしつけが悪いのかも」「ちゃんと向き合えてないかも」 と自分を責めてしまいがちです。
でも、思い出してほしいのです。
- 子どもは“困らせたくて”困った行動をしているわけではない
- ママも“ダメな親”でやろうとしているわけではない
私たちはみんな、 “今できることを、できる限り”やっているのです。
だからこそ、できていないところではなく、“できているところ”に目を向けることが大切です。
8-2. 「できていること」にも目を向けて
例えばこんなふうに振り返ってみましょう。
- 朝、子どもが癇癪を起こしたけど、最後は抱きしめて終われた。
- 今日も忘れずに視覚スケジュールを用意してあげた。
- 夜、読み聞かせの5分だけは、ゆっくり関われた。
それは、ママが“支援している”という確かな証拠です。
“しつけてない”なんて、そんなことはありません。
子どもの特性に合った関わりを続けているあなたは、 「しつけ」ではなく、「支援」という高いレベルで子育てしているんです。
8-3. ママのメンタルケアとしてのセルフコンパッション
セルフコンパッションとは、 “自分への思いやり”を持つ心理学的な方法です。
次のような3つの視点を意識することで、心がラクになることがあります。
【1】自分にやさしい言葉をかける
「今日もがんばったね」 「できない日があっても、それが人間だよ」 「私は私のペースで、ちゃんと向き合ってる」
【2】自分の苦しさを否定しない
「ツラいって思っていい」 「こんなに泣いたのは、それだけ子どものことを思ってる証拠」
【3】自分だけじゃないと知る
「同じように悩んでいるママはたくさんいる」 「私はひとりじゃない」
💡ママのケアは、子どもにも伝わっていく
ママが安心して笑えるとき、 子どもは「ここにいていいんだ」と感じられます。
ママが自分を責めずに、ちゃんと休むことができるとき、 子どもも「失敗してもやり直せる」感覚を育てていけます。
だからこそ、 ママの心のケアは、“子育ての第一歩”でもあるのです。
次は、記事のまとめとして 「しつけじゃない、“支援”という愛し方」についてお伝えします。
まとめ:しつけじゃない、“支援”という愛し方がある
「しつけがなってない」——
そんな言葉に、心が深く傷ついた日があったかもしれません。
でも、発達特性のある子どもにとって、 そしてそれを支えているあなたにとって、 “しつけ”とは「叱ること」でも「厳しくすること」でもありません。
それは、特性を理解し、その子が「できるようになる道」を共に歩くこと。
- 怒鳴るかわりに、視覚で伝える
- 押しつけるかわりに、できるステップをつくる
- 失敗を責めるかわりに、成功の種をまく
そんなふうに、しつけではなく“支援”という関わり方を選んだあなたは、 愛を深く届けられるママです。
「がんばっているママ」こそ、ちゃんとできている
毎日、大きな声を出してしまって落ち込んだ日も、 笑顔を忘れてしまった夜も、 それでもまた、子どもと向き合おうとするあなたは、 すでに十分がんばっているママです。
「しつけがなってない」と誰かに言われても、 その言葉に振り回されなくていい。
あなたは、 「その子の特性に合わせた“支援”を選び、実践している人」だから。
最後に:ひとりじゃない
子育ては、ひとりではできません。 特性のある子どもとの暮らしなら、なおさらです。
だから、“わかってくれる味方”とつながってください。
同じように悩み、泣いて、そして笑ってきたママたちが、 ここにたくさんいます。
支援という道を選んだあなたは、 もう、ちゃんと“できている”のです。
どうかそのことを、忘れないでください。


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