感覚過敏・鈍麻ってなに?日常生活で困りごとを軽くするヒント

感覚過敏と感覚鈍麻を考える コラム

はじめに

「服がチクチクして着られない」「音がうるさくて集中できない」「痛みに気づかない」──。

こうした困りごとは、「感覚の感じ方」に関係しているかもしれません。発達特性のある子どもたちの中には、「感覚過敏(かびん)」「感覚鈍麻(どんま)」と呼ばれる状態をもつ子がいます。

この記事では、感覚過敏・鈍麻とはなにか、そしてそれらによってどんな困りごとが起こりやすいのか、家庭や園・学校でどう関わると子どもが少しラクになるのかをわかりやすく解説していきます。

第1章|感覚過敏・感覚鈍麻とは?

感覚過敏とは

感覚過敏とは、「感覚を通常よりも強く感じてしまう状態」です。本人にとっては、

  • ほんの少しの光でも「まぶしすぎる」
  • わずかな音でも「うるさくて耳が痛い」
  • 服のタグや素材が「チクチクして痛い」

など、周囲の人が気にならない刺激にも強い不快感を覚えることがあります。

感覚鈍麻とは

一方、感覚鈍麻とは「感覚を通常よりも鈍く感じる状態」です。次のような特徴が見られることがあります:

  • 大きな音に驚かない
  • 転んでも痛がらない
  • 口の中に食べ物が入っていても気づきにくい
  • 触られても反応が薄い

いずれも「五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)」や「固有受容覚」「前庭覚」などの感覚処理が影響しているとされ、感覚統合の視点での理解が重要です。

第2章|どんな困りごとが日常で起きやすいの?

感覚の過敏さや鈍さは、日常生活にさまざまな影響を与えます。以下は感覚別に見られやすい困りごとの例です。

視覚(光の感じ方)

  • 過敏:蛍光灯の光がまぶしくて目が開けられない、明るい場所を嫌がる
  • 鈍麻:光の強さをあまり気にせず、強い光をじっと見続けてしまう

聴覚(音の感じ方)

  • 過敏:チャイム、掃除機、電車の音などに驚き耳をふさぐ、叫ぶ、パニックになる
  • 鈍麻:名前を呼ばれても気づかない、周囲の音を聞き取るのが苦手

触覚(肌で感じる)

  • 過敏:服の素材、タグ、髪の毛のブラッシング、シャワーが苦手
  • 鈍麻:泥遊びや水遊びに夢中になる、怪我をしても痛がらない

味覚・嗅覚

  • 過敏:味や匂いに敏感で偏食がひどい、特定の食べ物を極端に嫌う
  • 鈍麻:濃い味付けを好む、腐った匂いや異臭に気づきにくい

前庭覚(バランス・動きの感覚)

  • 過敏:ブランコや回転が苦手、車酔いしやすい
  • 鈍麻:グルグル回るのが好き、常に体を動かしていないと落ち着かない

固有受容覚(筋肉や関節の感覚)

  • 過敏:力加減が極端、鉛筆を強く持ちすぎて疲れる
  • 鈍麻:自分の力加減がわからず、強く押す・引っ張る・ぶつかるなどが多い

第3章|感覚の困りごとに気づくヒントとサイン

感覚過敏や鈍麻は、見た目だけではわかりにくい「内面の困りごと」です。子どもの行動や反応の中に、そのサインは隠れていることがあります。

子どもの行動に注目する

  • 何度も耳をふさぐ・目を細める
  • よく転ぶ・バランスを崩す
  • 食事に極端な好き嫌いがある
  • 触れられるのを嫌がる/逆にベタベタ触ってくる
  • 同じ遊び(回転・ジャンプ)を繰り返す

これらは「わがまま」や「しつけの問題」ではなく、感覚の感じ方が影響している場合があります。

検査や評価で気づくことも

療育センターや言語聴覚士(ST)、作業療法士(OT)などによる評価で、感覚処理の傾向が明らかになることがあります。「もしかして」と思ったときは、専門家の意見を聞くことも大切です。

保育園や学校で気づかれることも

集団の中での生活で、周囲と違う反応を見せることがきっかけになる場合もあります。

  • 音楽や運動の時間を嫌がる
  • 集団行動が苦手
  • 特定の活動だけ極端に避ける or 執着する

こうした傾向は、先生や支援者と情報を共有しながら、子どもの感覚特性を理解する手がかりになります。

第4章|感覚の困りごとを軽くする工夫と家庭でできる支援

感覚過敏や鈍麻を「なくす」ことは難しくても、環境を整えることで困りごとを軽くすることは可能です。ここでは、家庭で実践できる工夫を紹介します。

感覚の刺激を「調整」する

  • 視覚過敏:間接照明ややわらかい光のスタンドを使う、眩しさを避ける帽子やサングラスを活用
  • 聴覚過敏:ノイズキャンセリングイヤーマフの使用、静かな空間での学習時間の確保
  • 触覚過敏:タグを取った服を着せる、好みの素材の服を選ぶ、お風呂のシャワーは桶にくんでかける

感覚を「満たして落ち着く」環境づくり

  • 鈍麻の子に対しては、安心してジャンプしたり回転したりできるマットやトランポリン、バランスボールを用意する
  • スキンシップや深圧刺激(クッションで包む、抱きしめるなど)を日常に取り入れる

日課に組み込む「感覚あそび」

  • 触覚:スライムや粘土遊び、砂場遊びなどで感覚を楽しむ
  • 前庭覚:ブランコ、ジャンプ遊び、ゆらゆら遊具など
  • 固有受容覚:重いもの運びや雑巾がけ、のぼり棒

環境調整だけでなく「予告と見通し」も大事

感覚に不安を感じやすい子は、次に何が起こるか分からないことに強いストレスを感じます。そこで:

  • 「これからシャワーだよ」と予告する
  • 苦手な活動には代替手段や段階的な慣れを用意する(シャワー→お湯を手で少しずつかける→桶でかける)
  • 視覚スケジュールや絵カードで「見てわかる」安心を作る

家族や園・学校との連携

保護者だけで頑張らず、園や学校の先生と情報共有して、「何に困っているのか」「どう関わると落ち着くのか」を一緒に考えることが大切です。

第5章|困っているのは誰?感覚の違いに寄り添う社会のまなざし

感覚過敏や鈍麻をもつ子どもたちの行動は、一見すると「わがまま」や「こだわりが強い」と受け取られやすいものです。ですが、その行動の背景には、脳の感じ方の違いという“本人にもどうにもならない”特性があることが多くあります。

子どもたち何に困っているかを見る目をもつ

たとえば――

  • 音楽の時間に耳をふさいで動かなくなる子
  • 体育のマット運動で泣いてしまう子
  • 給食を見てパニックになる子

これらの行動を、「できない」「やらない」「サボっている」と見るか、「やりたいのに感覚がしんどくてできないのかも」と捉えるかで、関わり方は大きく変わります。

「困っているのはこの子自身なんだ」と捉えなおすことで、私たち大人の反応も、指導から支援に変わります。

「ふつう」は人の数だけある

発達特性をもつ子どもたちの感じ方や行動は、「平均」や「ふつう」から外れて見えることがあるかもしれません。しかし、感覚のとらえ方は誰もが少しずつ異なります。

  • 音が気になる人
  • 光に敏感な人
  • 味にこだわりがある人

それぞれが持つ“感覚のクセ”を尊重することで、多様性を認め合える社会がつくられていきます。

子どもたちが「安心できる居場所」を持てるように

感覚の違いがあっても、

  • 自分の困りごとを説明できる
  • 安心して過ごせる環境がある
  • 理解者がそばにいる

そんな経験の積み重ねが、自己肯定感や生きる力へとつながっていきます。

支援の目的は、「ふつうにさせること」ではなく、「その子なりに暮らしやすくなること」。子どもが自分らしく成長していくために、私たち大人ができることは「理解」と「調整」です。

おわりに

感覚過敏や鈍麻は、目に見えないからこそ誤解されやすい特性です。
でも、ちょっとした視点の転換や環境の工夫で、子どもたちの「困り」は大きく軽くなります。

「どうしてこの子はこうなんだろう?」という疑問を、「どんなふうに感じてるのかな?」というまなざしに変えていくこと。それが、子どもたちの安心と成長を支える第一歩になります。

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