はじめに

「うちの子、来年は小学校…どのクラスが合っているんだろう?」
発達に特性のあるお子さんをもつ保護者にとって、就学前の大きな悩みのひとつが「支援級」「通級」「普通級」の選択です。
「できれば普通級に行かせたいけど、ついていけるのかな?」「支援級ってどんなことをするの?」「通級との違いは?」
この記事では、各学級の制度的な定義や目的、対象となる子ども像、そして就学前に押さえておきたい判断基準を、文部科学省などの公的情報を元にわかりやすく解説します。
第1章|3つの就学先の制度的な違い

1-1. 普通級とは?
**普通級(通常の学級)**は、全ての小学校に設置されている一般的な学級で、文部科学省の学習指導要領に基づいて、学年単位で編成されています。
特徴:
- 年齢に応じた学年に在籍
- 一斉授業・集団活動が基本
- 一人の学級担任が中心となって指導
- 必要に応じて、加配教員や特別支援教育支援員のサポートを受けることも可能
対象となる子ども像:
- 学習・行動・コミュニケーション面で大きな困難がない
- 集団での行動がある程度可能
- 指示理解・ルール理解がある程度身についている
1-2. 通級による指導とは?
**通級による指導(以下、通級指導)**は、通常の学級に在籍しながら、特別な支援を必要とする児童が、週に数時間程度、別室で専門的な指導を受ける制度です。
文科省の資料では「特別な支援を必要とする児童生徒に対し、障害に応じた特別の指導を通級によって行うことができる」とされています(文部科学省「通級による指導ガイドライン」2021年改訂版)。
特徴:
- 在籍は普通級
- 支援の場は別室で、専門教員が個別または小集団で指導
- 指導内容は、言語、LD、ADHD、ASD、情緒など多岐にわたる
- 送迎を保護者が担う場合も(自治体による)
対象となる子ども像:
- 普通級での生活は基本的に可能
- ただし一部の分野(注意集中、読み書き、対人関係など)において明確な困難がある
1-3. 特別支援学級(支援級)とは?
**特別支援学級(以下、支援級)**は、障害のある児童がその特性に応じた教育を受けるために、通常の学校に設置される特別な学級です。
文部科学省は、「知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱、言語障害、自閉症・情緒障害、難聴、弱視」などの障害種別に応じた支援級を定めています(文部科学省「特別支援教育資料」)。
特徴:
- 少人数(1学級6~8名程度)
- 学年混合での編成もあり
- 教科等別に、普通級との交流・共同学習も可能
- 担当は特別支援教育の専門免許を持つ教員
対象となる子ども像:
- 知的、身体的、または情緒面で顕著な困難を持ち、通常の学級での学習に著しい支障があると判断される児童
- 一人ひとりの教育的ニーズに応じた、個別の教育計画(IEP)が必要
次章では、それぞれの学級の「メリットとデメリット」、実際の保護者や学校現場での声を交えて解説していきます。
※参考・出典:
- 文部科学省『通級による指導ガイドライン(令和3年改訂)』
- 文部科学省『学習指導要領(小学校)』
- 文部科学省『特別支援教育資料』
- https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/index.htm
第2章|それぞれの学級のメリットとデメリット

学校選びでは「この子にとって、どの環境が安心できて、成長できるのか」が最も大切です。
ここでは、各就学先の実際の教育現場での特徴をふまえ、メリット・デメリットを具体的に解説していきます。
2-1. 普通級のメリット・デメリット
【メリット】
- 地域の子どもたちと一緒に過ごすことができ、将来的な進学や社会参加へのスムーズな移行がしやすい
- 「通常学級で学ぶ」という経験そのものが、本人の自信につながることがある
- 社会性や集団行動のルールを自然と学びやすい
【デメリット】
- 一斉指導の場面が中心となり、特性に配慮した個別対応が難しいことがある
- 感覚過敏や多動、言語理解の困難などがある場合、本人の心理的負担が大きくなる可能性
- 担任の理解や経験によって対応が異なる(特別支援に関する研修を受けていない場合も)
2-2. 通級のメリット・デメリット
【メリット】
- 特性に応じた個別指導を専門教員から受けることができる
- 通常の学級で過ごしながら、苦手分野にピンポイントで対応できる
- 自尊感情を保ちながら支援を受けられるため、「普通級で頑張る子ども」を支える仕組みとして有効
【デメリット】
- 通級時間中は普通級の授業に出られないため、学習面の穴が生じるリスク
- 受け入れ枠が限られており、希望しても通えないケースがある(特に都市部)
- 送迎が必要な地域も多く、保護者の負担が大きい
- 通級の担任との連携が弱いと、支援が一時的・限定的になる場合がある
2-3. 支援級のメリット・デメリット
【メリット】
- 少人数での手厚い指導が受けられる
- 特性に応じたペースで学習でき、苦手を過度に責められずに過ごせる
- IEP(個別の教育支援計画)に基づくきめ細やかな支援が可能
- 必要に応じて普通級との交流授業も選択できる
【デメリット】
- 在籍学級が普通級ではなくなることで、周囲との交流機会が制限されることがある
- 子どもが「特別なクラス」に在籍しているという意識をもち、自己認識に影響する場合もある
- 学校によって支援級の運営方針が異なり、支援の質や内容に差がある(例:交流の割合、学習内容の深度など)
次章では、どのような視点で我が子の「合う環境」を見つけていけばよいか、保護者が使えるチェックリストをもとに解説します。
※参考・出典:
- 発達障害情報・支援センター(https://www.rehab.go.jp/ddis/)
- 文部科学省『特別支援教育資料(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/index.htm)』
- 東京都教育委員会『特別支援教育ハンドブック』
- さいたま市教育委員会『支援級・通級について』
第3章|就学前の判断に役立つ5つのチェックポイント

「うちの子にはどの学級が合っているのだろう?」と悩んだとき、客観的な判断材料が必要です。
ここでは、就学相談や支援者との面談でよく問われる項目や、家庭で見極めるべき観点を5つの視点に分けて紹介します。
3-1. 集団生活における指示理解・行動の安定性
就学後は「先生の話を聞き、それに従って行動する」「順番を守る」「集団行動に参加する」といった力が求められます。
- ✅ 名前を呼ばれたときに返事ができるか
- ✅ 一斉指示(「かばんをしまって椅子に座ってください」など)に従えるか
- ✅ 集団行動の際に他児のペースを乱さずに参加できるか
指示理解や行動の安定に不安がある場合、支援級や通級の検討が必要になるケースもあります。
3-2. 感覚過敏・多動・衝動性の程度
感覚特性や注意・行動の自己コントロールも就学後の生活に大きく影響します。
- ✅ 音や光、においなどへの過敏反応があるか
- ✅ 授業中の座位保持が困難で、頻繁に立ち歩く傾向があるか
- ✅ 突発的な行動(たとえば怒って物を投げるなど)が目立つか
これらの特徴がある場合、通常の学級環境ではストレスが強くなりやすく、支援のある環境が望ましいことがあります。
3-3. 読み書き・計算など学習面の困りごと
認知面・学習面の困難は、支援級・通級の判断に大きく関わります。
- ✅ ひらがなの読み書きが困難/鏡文字・読み飛ばしが多い
- ✅ 数概念(多い・少ない、順序など)の理解に遅れがある
- ✅ 話し言葉はしっかりしているが、書く・読むになると混乱がある
これらは発達性ディスレクシア・ディスグラフィア・算数障害など学習障害(LD)の可能性も含まれ、通級などの専門的支援が有効です。
3-4. 友だち関係・社会性のつまずき
就学後の適応において、友だちとの関係構築も大切な視点です。
- ✅ 自分の思い通りにならないと感情的になる傾向がある
- ✅ 会話が一方的/視線が合いにくい/空気が読めない場面が多い
- ✅ 友だちの遊びに入りにくい・トラブルが頻繁に起きる
社会性や対人理解に課題がある場合、ASD傾向が疑われることもあり、支援級や通級での支援が有効に機能するケースがあります。
3-5. 医師・療育の支援者の意見を確認する
最終的な判断の際に、医師や療育機関などの専門家の助言は非常に有益です。
- ✅ 医師による診断(発達障害、知的障害など)
- ✅ 療育先での観察記録や担当者の見解
- ✅ 幼稚園・保育園からの客観的な意見
就学相談の際にもこれらの情報は重要視されます。専門職からの意見は、客観的な視点として活用しましょう。
次章では、保護者が「正しい選択をするために知っておくべき大切な視点」について、心構えと共にお伝えしていきます。
第4章|迷ったときに大切にしたい3つの視点
「支援級にした方がいいと言われたけど、本人が嫌がる…」 「普通級に入れたいけど、先生に『通級を勧めたい』と言われた…」
就学先を決めるとき、制度やチェックポイントだけでは決めきれない“心の迷い”があります。ここでは、保護者が最終判断をするうえで大切にしてほしい視点を3つ紹介します。
4-1. 「子どもにとっての安心」が最優先
「普通級に入れたい」という気持ちは、多くの親が持つ自然な願いです。しかし、
子どもにとって「安心していられる環境」はどこか?
という視点がもっとも重要です。
たとえば、毎日緊張しながら指示を聞くより、支援級で安心して自分のペースで学べる方が、結果的に自己肯定感が育ち、学びにつながることもあります。
また、通級など“サポートがある普通級”という折衷案も有効な選択肢となります。
4-2. 「今の状態」だけで判断しない
「今この時点では落ち着きがないから支援級」「読み書きが苦手だから通級」といった判断だけではなく、
6歳〜12歳までの“6年間”でどう伸びていけそうか?
という長い目で見た視点が欠かせません。
特に就学前後は「発達のギャップ」が大きく目立つ時期です。療育や支援、環境調整で大きく変わる子もいます。
「今は支援級。でも将来的に普通級へ交流・移籍も可能」といった“流動的な選択肢”もあることを知っておきましょう。
4-3. 情報は「複数の専門家」から集める
就学前に関わる専門家は多様です。
- 幼稚園・保育園の先生
- 児童発達支援や療育機関の担当者
- 医師(小児科、児童精神科)
- 心理士・臨床発達心理士
- 教育委員会の就学相談員
それぞれに立場と視点があるため、1人の意見だけでなく「複数の視点」を照らし合わせることが重要です。
また、「保護者の直感」も無視せずに大切にしてください。日々子どもと接している親だからこそわかる変化や反応が、最適な選択のヒントになることもあります。
次章では、実際の就学相談や選択の流れについて、具体的なステップと共に紹介していきます。
第5章|就学相談の流れと当日のポイント
就学先を正式に決定する前に、多くの自治体では「就学相談」というプロセスが設けられています。ここでは、就学相談の一般的な流れと、当日までに準備しておきたいポイントを紹介します。
5-1. 就学相談とは?
就学相談とは、発達に特性のある子どもが適切な学びの場を選ぶために、教育委員会と話し合いを行う制度です。就学前の秋頃から受付が始まり、次年度4月の入学に向けて段階的に進みます。
対象となるのは、以下のようなケース:
- 発達障害(ASD・ADHD・LDなど)の診断を受けている
- 療育に通っている
- 幼稚園や保育園で特別な配慮が必要とされている
- 医療機関や支援者から支援級や通級の必要性を示唆されている
5-2. 一般的な就学相談の流れ
- 申請・受付(6月〜9月ごろ)
- 教育委員会や市町村の就学相談窓口に申請
- 申請書類の提出、個別面談の予約などを行う
- 事前面談・観察(9月〜10月)
- 保護者との聞き取り面談
- 子ども自身の様子を観察(必要に応じて心理検査・行動観察など)
- 園の先生や療育先の意見をもとに、教育的ニーズを整理
- 判定会議・就学判定(10月〜11月)
- 医師・心理士・特別支援教育コーディネーターなどによる合議制で就学先の“助言”が出される
- ここでは「決定」ではなく「提案」となる
- 就学先の決定(12月頃まで)
- 教育委員会や学校と保護者で相談し、最終決定へ
- 必要に応じて「体験入級」や「学校見学」「説明会」も可能
5-3. 相談前に準備しておきたい資料と心構え
準備しておくとよい資料:
- 医師の診断書(ある場合)
- 療育手帳、発達検査の結果など
- 療育機関や園の先生からの意見書
- ITP(療育で使っている個別支援計画)など
保護者として大切な心構え:
- 「普通級ありき」ではなく「子どもに合う場所はどこか?」という視点
- 「一度決めたら一生それ」というわけではなく、移籍や変更も可能
- 子どもの将来の安心や自信の育ちを第一に考える
- 両親で事前に意向を確認し、同じ方向をむけるようにしておく
最終章では、実際に選んだ家庭の声をもとに「選んだ後にどう関わるか?」の視点をご紹介します。
第6章|選んだ後に親ができるサポート

就学先を選んだあと、保護者の役割が終わるわけではありません。むしろ、入学してからの「家庭との連携」「子どもへの支え」が、その選択をよりよいものにしていきます。
ここでは、進学後に保護者としてできる3つのサポート視点を紹介します。
6-1. 子どもに「安心できる居場所」をつくる
どの学級を選んでも、子どもが不安になったり、つまずく場面は必ずあります。そんなときに、家庭が“安心できる基地”になっているかどうかは非常に大切です。
- 毎日の小さな成長を認める声かけ(例:「今日もがんばったね」「教室に入れたんだね」)
- 学校でのつまずきについて責めずに聞く姿勢
- 「できた/できなかった」で評価せず、「がんばった過程」を言葉にする
子どもが「自分には味方がいる」と感じられることで、学校生活にも前向きになれます。
6-2. 担任や学校とのこまめな情報共有
就学後は、家庭と学校の連携が子どもの安心につながります。
- 担任との連絡帳や面談を活用し、家庭での様子も伝える
- 学校からの指摘や提案は「改善のヒント」として受け取る
- 特別支援コーディネーターや通級担当との情報共有も積極的に
支援級・通級の場合は特に、学校内の複数の先生が関わるため「家庭がハブになって橋渡しする」意識が大切です。
6-3. 子ども自身が「自分を理解する力」を育てる
子どもが年齢を重ねていくなかで、 「なぜ自分だけ別室なの?」「どうして支援が必要なの?」といった疑問を持つ時期が必ずやってきます。
そのときに備えて、
- 「人にはいろんな得意・不得意がある」
- 「困ったときは助けを借りてもいい」
- 「あなたにはあなたのペースがある」
といった価値観を、日々の会話や絵本などで少しずつ伝えていくことが大切です。
「わたしはわたしでいい」と思える自己理解と肯定感が、将来の社会的自立にもつながります。
次は記事のまとめとして、「制度を知るだけでなく、“選んだあと”こそが大切」というメッセージをお伝えします。
おわりに|制度を知ったその先へ
就学前に「どの学級がいいか」を知ることはとても大切です。けれど、本当に大切なのは「どこに入れるか」ではなく、
「その環境で、どう育てていくか」
という視点です。
進学はゴールではなくスタートです。お子さんにとって、学校生活が「安心して自分らしくいられる場所」になるように、そして保護者自身も「この子の育ちを見守っていける」という確かな気持ちで送り出せるように、制度や支援を正しく理解し、柔軟に選んでいきましょう。
子どもにとっての最善の環境は、「制度」や「ラベル」で決まるものではありません。家庭・学校・地域・支援者が、子どもを真ん中にして一緒に考え、育ちを支えていくこと。
この記事が、その一歩となれば幸いです。
※参考・出典:
- 文部科学省「特別支援教育資料」
- 各自治体教育委員会の就学相談ガイドライン
- 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所
- 発達障害情報・支援センター(DDN)



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