第1章|「ことばの遅れ」とは?年齢別の発達目安
「ことばが遅い」と感じたとき、まず大切なのは“年齢に応じた発達の目安”を知ることです。
「言葉の理解」と「発話の数・質」の両方から総合的に見ることが重要だとされています。
✅ 年齢別・ことばの発達目安(目安:厚生労働省・日本言語聴覚士協会等より)
| 年齢 | 主な発達の目安 |
|---|---|
| 0歳〜1歳 | 名前を呼ぶと振り向く/音に反応する/喃語(ばぶばぶなど) |
| 1歳〜1歳半 | 「まんま」「ブーブー」など単語が出始める/指差しが増える |
| 1歳半〜2歳 | 単語数が急増(50語以上)/二語文が始まる(例:「ママ きた」) |
| 2歳〜3歳 | 会話のやりとりが可能になる/3語文〜4語文/「これなに?」が増える |
| 3歳〜4歳 | 日常会話がスムーズに/過去・未来表現も増える/お話作りが始まる |
👉 1歳半健診や3歳児健診でことばの発達がチェックされるのは、上記の節目に基づいています。
🔍 ことばの「理解」と「表出」は別物
ことばの発達は、「聞いてわかる(理解)」と「自分で話す(表出)」の2つに分かれます。
● 表出(話すこと)だけが遅れている場合:
- 理解はできているが、発音や構音、言語表現が未熟なケース
- 男の子に多く、3歳頃から伸びてくる子も
● 理解も遅れている場合:
- 指示が通らない、会話がかみ合わないなど
- ASD(自閉スペクトラム症)や知的発達症などの可能性もある
👉「話さない=発達障害」と決めつけるのではなく、理解力や発信の意欲など複合的に見ていくことが必要です。
📌 ことばの遅れが心配される具体的なサイン
| 年齢 | 気になるサイン |
| 1歳半 | 単語が出ない/指差しがない/音に反応しにくい |
| 2歳 | 単語が10語以下/意味のある言葉が出ていない |
| 3歳 | 二語文が出ない/会話が成立しない/オウム返しが多い |
これらに当てはまる場合、言語聴覚士や発達支援センターへの相談が勧められます。
次章では、「そもそもなぜことばが出にくいのか?」子どもの特性や発達の偏りが関わっているケースについて解説していきます。
第2章|ことばが出にくい子の“特性”とは?
「ことばが遅い=ただの成長の個人差」と思いたくなる一方で、実はその背景に“その子なりの特性”があることも少なくありません。
この章では、言語聴覚士や発達支援の現場でよく見られる「ことばが出にくい子どもたち」に共通する発達的な特徴や背景要因について解説します。
🔸 1. 感覚の敏感さ・鈍さ
- 聴覚過敏/鈍麻: 特定の音に過敏だったり、逆に話し声が耳に入りにくかったりすると、ことばのインプット量に偏りが出る
- 触覚・口腔感覚の過敏: 発音や口の動きを嫌がることで発話が育ちにくいことも
👉「発音しにくい」ではなく「感覚的に苦手」なケースもある
🔸 2. 模倣の困難さ
ことばの習得は「聞く→真似する→繰り返す」という模倣の力が大きく関係しています。
- 言葉だけでなく、ジェスチャー・表情の真似も少ない
- 相手の口元を見ない/注意が逸れやすい
👉 発達障害傾向(特にASD)では「模倣の弱さ」が見られ、ことばの発達にも影響します
🔸 3. 注意の持続・切り替えの難しさ
- 音は聞こえているが、ことばの意味まで届いていない(選択的注意)
- 一つの遊びにこだわる or 興味の幅が狭い
👉「聞いていない」のではなく、「聞けていない」状態であることが多い
🔸 4. 社会的コミュニケーションの発達の偏り
- 相手の目を見ない/やりとりが続かない
- 言葉を使って要求・拒否・共有する経験が少ない
👉「話す」以前に“ことばを使う理由”が育ちにくい土台がある場合も
🔸 5. 家庭環境・インプット量の少なさ
- 大人とのやりとりの時間が少ない/画面時間が長い
- 子どもに“話しかけられる”環境が限定的
👉 「話すための材料=語彙や表現」が入ってこないと、当然アウトプットも出にくくなります
✅ 複数の要因が重なっていることが多い
ことばの遅れは「ひとつの原因」で起こるとは限らず、
- 感覚特性 × 注意の偏り × 模倣の苦手さ
- 環境要因 × 発達特性 など
いくつかの要素が複合的に絡み合っていることが多いのが現実です。
👉「この子はなぜ話しづらいのか?」を丁寧に見ていくことが、正しい支援の出発点です。
次章では、こうした背景をふまえたうえで、ついやってしまいがちな“NG対応”について整理していきます。
第3章|やってしまいがちなNG対応5選
「ことばを育てたい」と思うからこそ、つい一生懸命になってしまう。でも、よかれと思ってやっている関わりが、実は子どもの“話したい気持ち”をしぼませてしまっていることもあります。
この章では、言語発達支援の現場でもよく見かける、注意したいNG対応を5つ紹介します。
🔸 1. 「○○って言ってみて」と無理に言わせる
✅ NG理由:
- 子どもにとって“プレッシャー”になりやすい
- まだことばの準備が整っていない子には逆効果
👉「言わせる」よりも、「自然に言いたくなる場面をつくる」ことが大切
🔸 2. 「どうして話せないの?」と責める・比べる
✅ NG理由:
- 否定される経験が積み重なると、自己肯定感が下がる
- 兄弟や友達との比較はプレッシャーに
👉「話さない=悪いこと」という空気を家庭からなくすことが、安心感につながります
🔸 3. 画面(動画・TV・アプリ)に頼りすぎる
✅ NG理由:
- 一方通行のインプットはことばの発達に必要な“やりとり”が育ちにくい
- 言葉は「双方向の関係性」の中で育つ
👉どうしても使うときは“対話型”の関わりを意識(例:親子で実況しながら観る)
🔸 4. すぐに子どもの気持ちを代弁しすぎる
✅ NG理由:
- 「言わなくてもわかってもらえる」状態が続くと、自分から伝えようとする機会が減る
👉言葉が出そうなときは“待つ力”をもつ。1〜2秒の沈黙はチャレンジのチャンス!
🔸 5. 言葉だけで指示ややりとりを完結させる
✅ NG理由:
- 抽象的な言葉は理解しづらく、失敗体験につながる
👉絵カード・ジェスチャー・実物などを使って「伝わる」「わかる」体験を積ませる
次章では、これらのNG対応をふまえたうえで、家庭でできる「ことばを育てる5つのコツ」をご紹介していきます。
第4章|家庭でできる関わり方5つのコツ
NG対応を避けるだけでなく、「どう関わればことばが伸びやすくなるか?」を知っておくこともとても大切です。
この章では、言語聴覚士や保育・発達支援の現場で実践されている、ことばを引き出す5つの関わり方をご紹介します。
🔸 1. 「見る・待つ・応える」を意識したやりとり
✅ 実践ポイント:
- 子どもの目線や興味に合わせて「見る」
- 話しかけたあと、子どもが反応するのを「待つ」
- 声や仕草に対して「応える」
👉 これは“対話の土台”をつくる最も基本的なやりとりです
🔸 2. 子どもの気持ちを「代弁」しながらことばにする
✅ 実践ポイント:
- 「それ取りたかったんだね」「イヤだったんだね」と行動をことばに置き換える
- 感情語(うれしい・かなしい・くやしい)を積極的に使う
👉 子どもは“言葉にされる経験”を通じて、ことばの意味を理解していきます
🔸 3. 語りかけは「シンプル」「短く」「具体的に」
✅ 実践ポイント:
- 一文を5〜7語以内にする(例:「おもちゃ ちょうだい」「〇〇したいの?」)
- 指示は1つずつ区切る(例:「コップ もってきて」→次に「お水 いれてね」)
👉 脳の情報処理に負担をかけず、ことばの理解を助けます
🔸 4. 子どもの言葉を「広げる」声かけを
✅ 実践ポイント:
- 子「わんわん」→ 親「そうだね、わんわんが あるいてるね」
- 子「バナナ!」→ 親「バナナ、たべたいの?」
👉 子どもの発語を“正確に直す”より、“広げて返す”ことが効果的です
🔸 5. 音・リズム・繰り返しを活かした遊びを取り入れる
✅ 実践ポイント:
- 手遊び歌、ことばあそび、簡単な絵本の繰り返し読み
- オノマトペ(ぴょんぴょん、ゴクゴク、ブーブー)を積極的に使う
👉 音やリズムは、ことばの“音韻意識”を育てる土台になります
次章では、「家庭でできることをやっても心配が消えない…」というときのために、専門機関への相談タイミングとその準備について解説していきます。



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