はじめに|「ちょっと気になる」は親として大切な気づき
「他の子と比べてなんとなく違う気がする」「言葉が遅いような…」「こだわりが強すぎるのでは?」。そんなふうに、ふと感じる「ちょっと気になる」という思い。
実はこの「気になる」という感覚こそが、子どもに寄り添う第一歩であり、親として非常に大切な“直感”です。多くの親が感じていながら、「気にしすぎかも」「様子見でいいよね」と、自分の不安を見て見ぬふりをしてしまうことも少なくありません。
この記事では、発達の基本的な知識をわかりやすく解説しながら、「ちょっと気になる」がどんな視点で見られるか、支援や対応はどう始めればよいのか、家庭での関わり方や相談先まで、発達支援の専門的な視点から丁寧にお伝えします。
「知る」ことで、不安は少しずつ安心へと変わります。お子さんの特性を理解し、よりよい関わりを見つけるヒントにしてください。
第1章|発達ってそもそもなに?〜基本のキをわかりやすく解説〜
● 発達とは:身体・知的・社会性・情緒の成長プロセス
「発達」という言葉には、いくつかの側面があります。一般的には「年齢に応じて、心と体が育っていくこと」ととらえられますが、実際には次のように分けて考えることができます。
- 身体発達(粗大運動・微細運動):ハイハイ、歩行、手指の操作など
- 認知・知的発達:理解力、推論、記憶力など
- 社会性の発達:他者との関わり、集団行動、役割理解など
- 情緒の発達:感情の理解、自己調整、共感性など
このように、発達とは“全体的な成長の積み重ね”なのです。
● 定型発達と非定型発達の違い
子どもたちの成長スピードには個人差があります。しかし、多くの子どもがたどる成長の流れ=「定型発達」と、それに対して明らかに偏りやズレがある場合=「非定型発達」に分けて考えることで、「困りごと」の見え方がクリアになります。
たとえば、
- 2歳を過ぎても単語が出ない
- 3歳になっても指差しやアイコンタクトが少ない
- 集団行動が極端に苦手 など
は、非定型発達の可能性も視野に入れてよいサインです。
● 年齢別・発達段階のイメージ
【0〜1歳】
- 視線が合う、喃語が出る、物を追視する、寝返り・お座り・ハイハイなど
【1〜3歳】
- 指差し、簡単な言葉の使用、模倣遊び、ごっこ遊びのはじまり
【3〜5歳】
- 友達との関わり、順番を待つ、集団活動への参加、質問への受け答え
【6歳以降】
- 課題への集中、意図的なコミュニケーション、自己調整、ルールの理解

子どもの成長を見守るとき、「今この年齢でどんな力が育っていく時期なのか」を知っておくと、自然な遅れと支援が必要なサインを見分けやすくなります。
● 発達の「ゆれ」と「偏り」も自然なこと
子どもには誰でも「得意」「不得意」があります。発達にはゆれ幅があり、ある時期に遅れているように見えても、次のステップで一気に伸びることも。
また、言語は得意だけど運動が苦手、社会性は高いけど感覚に敏感など、「発達の凸凹(でこぼこ)」は珍しいことではありません。
「平均」や「ママ友の子」と比べすぎず、自分の子のペースで成長を見守るためにも、基礎的な発達知識は大きな味方になるのです。
第2章|“ちょっと気になる”とは?見逃さない5つのサイン
「なんとなく気になるけど、うちの子だけが特別困ってるわけじゃないし…」そんなふうに思いながら、日常の中で感じるモヤモヤ。実は、その小さな違和感の中に“支援が必要なサイン”が隠れていることもあります。
ここでは、発達支援の専門家が見る「気になるサイン」を5つに整理して紹介します。1つでも当てはまるものがあれば、気軽に発達相談につながってみるのもおすすめです。
🔸 サイン1:ことばの遅れ・会話が通じにくい
- 2歳を過ぎても単語が出ない、言葉の爆発期が来ない
- 話しかけても反応が薄い、オウム返しが多い
- 質問に答えられず、会話が一方通行
👉 言葉はコミュニケーションの氷山の一角。背景に「聞く力」「理解力」「相手に意識を向ける力」が関わっていることも。
🔸 サイン2:お友だちとの関わりが苦手
- 一人遊びばかりで集団に入れない
- 順番が待てない、ルールを守れない
- すぐに手が出る、強いこだわりで衝突が起こる
👉 社会性の発達は、発達障害(特にASD)傾向を見分ける重要なポイント。早期からの支援で改善が期待できます。
🔸 サイン3:感覚過敏・感覚のアンバランス
- 音や光に過敏に反応してパニックになる
- 洋服のタグや靴下の縫い目を嫌がる
- ジャンプばかりする、物を叩き続けるなど感覚刺激を求める行動が強い
👉 感覚の偏りは「わがまま」ではなく、脳の処理の特性。感覚統合の支援が効果的です。
🔸 サイン4:指示が通りにくい・癇癪が多い
- 一度で伝わらない、話を聞いていないように見える
- 予定変更でパニック、思い通りにいかないと大泣き
- 叱るほどに行動が悪化する
👉 行動には「理由」がある!ABAでは「困りごとの機能=目的」を探ることで、対応を変えられます。
🔸 サイン5:集中できない・落ち着きがない
- 常に動いている、じっとしていられない
- 興味が移ろいやすく、切り替えが苦手
- 注意がそれて話が頭に入らない
👉 ADHD傾向の可能性も。環境調整や指示の工夫が効果的。
\チェックポイント!/
以下のような「親の気づき」は、早期支援のきっかけになります。
1つでも当てはまれば、「相談してみる」価値は十分にあります。発達の問題は、放置すると本人も周囲も苦しくなってしまうことがありますが、早期に気づき・関わることで大きく改善します。
次章では、「グレーゾーン」「診断」「療育」など、よく聞くけれど曖昧な言葉について、わかりやすく整理していきます。
第3章|発達の問題と診断の違い〜グレーゾーンとは?
子どもに発達の“気になり”があると、「うちの子、発達障害なの?」という疑問や不安が湧いてくる方も多いと思います。けれど、実際には「診断がつく=支援が必要」「診断がつかない=問題なし」という単純なものではありません。
この章では、発達の問題と「診断」の違い、そして「グレーゾーン」という言葉の意味を整理していきます。
🔸 発達障害とは?
発達障害とは、脳機能の発達に偏りがあり、日常生活や社会生活に支障をきたす状態のことを指します。
主な種類としては以下の3つが挙げられます:
- ASD(自閉スペクトラム症):こだわりの強さ、コミュニケーションの困難
- ADHD(注意欠如・多動症):不注意・多動・衝動性の強さ
- LD(学習障害):読む・書く・計算など、学習の特定の分野に困難がある
これらは「脳の特性」であり、「しつけの問題」「育て方の失敗」ではありません。
🔸 グレーゾーンとは?
「グレーゾーン」とは、医学的な診断基準(DSM-5など)には該当しないが、明らかに生活や学習に困難が見られる状態を指します。
つまり、
- 困っているけど診断基準には届かない
- 支援が必要だが“障害”とまでは言えない という子どもたちです。
実際、園や学校では「診断がある/ない」に関わらず、“困っている子ども”への支援が求められています。
🔸 診断の流れとその意味
診断は、医師(小児神経科・児童精神科など)が専門的な検査や問診・観察を通して行います。
主な流れは:
- 親・園・学校などからの相談
- 発達検査(新版K式発達検査、WISC、田中ビネーなど)
- 医師による診断
ただし「診断がついたから終わり」ではなく、そこからどう支援を始めるかが大切なポイントです。
🔸 診断がつかなくても支援はできる
発達の“ズレ”や“困り感”は、診断がついていなくても生活を苦しくさせる原因になります。
たとえば:
- 指示が通らず、怒られることが増える
- 集団での活動についていけず、自己肯定感が下がる
- 友達関係でトラブルが続く
こういった場合、「支援が必要な状態」と判断して、療育や家庭支援を始めていくことが可能です。
👉 診断の有無にかかわらず、“今その子が困っているか”に目を向けることが大切です。
🔸 よくある誤解:診断=レッテルではない
「診断をつけたらこの子の将来が狭まるのでは…?」と心配される親御さんもいます。
けれど、診断は子どもの“現状の理解のツール”にすぎません。
むしろ:
- 支援や療育を受けやすくなる
- 学校で配慮が受けられる
- 親自身が子どもに対して理解を深められる
といったメリットの方が大きいのです。
次章では、実際に支援者が子どもを見るときにどんな視点で「困りごと」を分析しているのか、家庭でも使える観察のヒントを紹介します。
第4章|発達の専門家が見る視点と観察ポイント
「なんでこんな行動をするの?」「なにが原因なの?」と、子どもの困りごとに直面したとき、親は戸惑いがちです。
けれど、専門家は“見えている行動の裏側”を丁寧に観察し、その背景にある「理由」や「機能」を読み取ろうとします。
ここでは、支援現場でよく使われる観察の視点と、家庭でも活用できる方法を紹介します。
🔸 表面の行動にとらわれない「行動分析」の視点
発達支援の現場では「ABC分析」という考え方をよく使います。
| 項目 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| A(Antecedent) | きっかけ・前の出来事 | 片付けの声かけをされた |
| B(Behavior) | 子どもの行動 | 大声で泣く・床に寝転がる |
| C(Consequence) | 結果・周囲の反応 | 親が片付けをやめる・手伝う |
この流れを見ていくと、「泣く」という行動が“片付けを回避するため”という機能をもっている可能性が見えてきます。
👉 「なぜこの行動をしているのか?」を知るには、その前後を見ることがとても大切です。
🔸 困りごとの「機能」を知る4分類
ABA(応用行動分析学)では、子どもの行動の“目的”を以下の4つに分類します:
- 要求(欲しい・やってほしい)
- 注意をひく(構ってほしい)
- 逃避(やりたくない・回避したい)
- 感覚(感覚刺激が心地よい)
たとえば:
- 叩く→「構ってほしい(注意)」
- 床に寝転がる→「やりたくない(逃避)」
- 奇声をあげる→「楽しい(感覚)」
同じ行動でも背景にある目的が違えば、対応方法も変わります。
👉 叱る前に「この行動にはどんな意味があるんだろう?」と考えることが、支援の第一歩です。
🔸 家庭でもできる!簡単な観察&記録の方法
日々の行動を観察し、記録しておくことで“パターン”が見えてきます。
おすすめの書き方:
- いつ(何時・どんな場面)
- どんな声かけ・状況で
- どんな行動をしたか
- そのあとどうなったか
例:
- 17:00 お風呂の声かけ→泣いて走り回る→10分後、無理やり連れていく
- 朝の登園前、ズボンを履かない→「じゃあ今日はパジャマのままね」と言ったら履いた
こうした記録は、専門機関での相談時にも非常に役立ちます。
🔸 行動の“意味”がわかると親の対応が変わる
「またやった!」と怒ってしまいそうな場面でも、
- 「この行動には理由があるんだ」
- 「どう関わればいいかな?」 という思考に切り替わると、親自身もラクになり、子どもとの関係もぐっとよくなります。
👉 観察は、親が“叱る”から“理解する”へと変わる大切なステップです。
次章では、実際に支援を始める際に「どこに相談すればいいのか」「家庭でできることは何か」を具体的に紹介していきます。
第5章|「気になる」を放置しないためにできること
子どもの「ちょっと気になる」サインに気づいたら、できるだけ早く行動に移すことが大切です。ここでは、家庭でまずできることから、外部機関に相談する方法まで、具体的なステップを紹介します。
🔸 ステップ1:家庭内での「記録」と「共有」
まず最初にできるのが、子どもの様子を記録することです。すでに第4章でも触れましたが、簡単なメモで十分です。
- どんなときに困っているか
- どんな反応をするか
- 親としてどう感じたか
この記録は、相談時の重要な資料となるだけでなく、親自身が冷静に子どもを観察する手助けにもなります。
さらに、保育園・幼稚園・小学校の先生など関係者と情報を共有することで、家庭外の様子も見えてきます。
👉「うちだけかな?」と思っていたことが、実は園でも見られている行動かもしれません。
🔸 ステップ2:発達相談・療育センターにアクセスする
各自治体には「発達相談センター」「児童発達支援センター」などがあり、無料または低料金で発達に関する相談ができます。
\相談先の例/
- 市区町村の子育て支援課
- 保健センターの発達相談
- 児童発達支援事業所(療育)
- 地域の保育士・臨床心理士・作業療法士など
相談では、専門家が子どもの行動を評価し、必要に応じて発達検査や療育の紹介をしてくれます。
👉「大丈夫かどうかを見てもらう」だけでも、相談する価値はあります。
🔸 ステップ3:療育とは?その内容と費用感
「療育」という言葉を初めて聞く方も多いかもしれません。
療育とは、発達に偏りや遅れのある子どもに対して、
- 社会性の支援
- 言語・運動発達の促進
- 日常生活スキルの練習 などを行う、専門的な支援プログラムです。
療育の形態はさまざまで、
- 小集団での支援(ソーシャルスキルトレーニング)
- 個別支援(ABA・言語療法など)
- 家庭支援(ペアレントトレーニング) など、子どもと家庭にあわせて選ぶことができます。
【費用の目安】
- 児童発達支援は自治体の補助があるため、月数千円程度で通所可能
- 世帯収入に応じて上限額あり(0~4600円/月が多い)
👉 支援=特別なこと、ではなく、「子どもをのびのび育てるための環境づくり」ととらえましょう。
🔸 ステップ4:家庭でできる対応を学ぶ
相談や療育と並行して、家庭でもできる支援を始めていくと、子どもの変化がより見えやすくなります。
おすすめのアプローチ:
- 応用行動分析(ABA)に基づく声かけ
- 感覚遊びや成功体験の積み重ね
- 親子で楽しめるやりとり遊び
- 決まったルーティンと見通しの提示
また、親自身が学べる「ペアレントトレーニング(PT)」も全国で実施されています。発達特性のある子どもとの関わり方を、具体的に身につけられる講座です。
👉 子どもだけでなく「親が変わること」が、家庭全体の雰囲気に大きく影響します。
次章では、親自身が「ラクに」「前向きに」子育てを続けるために知っておきたい“心構え”や知識を紹介していきます。
第6章|親が知っておくとラクになる知識と心構え
子どもの発達に不安を感じるとき、親として「何とかしなきゃ!」とがんばりすぎてしまう方は少なくありません。でも実は、「親がラクになること」が、子どもの安心や発達にも深くつながっています。
ここでは、親自身が知っておくと心が軽くなる“考え方”と“知識”を紹介します。
🔸 「できない=やらない」ではない
発達特性のある子は、「やらない」のではなく「できない」ことがあります。
- 靴をはかない → 実は順序が覚えられない
- 名前を呼んでも返事がない → 耳で聞き取るのが苦手
- 落ち着きがない → 感覚過敏や集中の持続が難しい
👉「やらない」ではなく「どうすればできるようになるか」という視点が大切です。
🔸 子どもの「特性」は変えられなくても、環境は変えられる
発達の特性は“個性の一部”です。本人の力だけで変えていくのではなく、環境側が調整することで、子どもが力を発揮できる場面が増えていきます。
たとえば:
- 集中できない → 静かな空間・1対1で対応
- 癇癪が多い → 見通しを伝え、急な変更を減らす
- 失敗が多い → スモールステップで達成感を積み重ねる
👉「この子にはどういう環境が合うのか?」と考えることが支援の第一歩です。
🔸 ほめ方・伝え方を変えるだけでも親子関係は変わる
ABAやペアレントトレーニングでも重視されているのが「行動の強化」です。
- よくできたときだけでなく、「やろうとした」「一部できた」も見つけて声かけを
- 「〇〇しないで!」ではなく、「〇〇してね」と肯定的な指示に
- できたときは、具体的に「〇〇できたね!」と伝える
👉「できた」を増やす関わりが、自己肯定感と信頼関係を育てます。
🔸 親が“ラクになる”ことも子どもの発達支援の一つ
「私がもっと頑張れば…」と自分を責めていませんか?
でも、親も人間。疲れているときは休んでOK。子どもとの時間がうまくいかない日があっても、それが“普通”です。
- 子どもの困りごと=親の責任ではない
- 誰かに相談することは“弱さ”ではなく“戦略”
- 自分の感情にも気づいてあげる
👉「親が自分を大切にすること」が、子どもにも良い影響を与えます。
次章では、ここまでのまとめと、発達支援の第一歩として親ができる“小さなアクション”を紹介していきます。
第7章|まとめ:発達の気になりに「早すぎる」はない
「うちの子ちょっと気になるかも…」という気づきは、決して間違いではありません。
むしろその“気づき”こそが、子どもの未来を変える大きな一歩になります。
✅ 今回のポイントまとめ
- 発達には個人差があり、凸凹は自然なこと
- 見逃しやすいサインを知ることで、早期発見につながる
- 診断がつかなくても支援は可能。「困りごと」がある時点で関わってOK
- 専門家の視点(ABC分析・機能分析)を知れば、行動の理由が見えてくる
- 家庭でもできることから始めて、無理なく続ける支援を
- 親自身の心の余裕が、子どもへの最良の支援になる
🌱 今日からできる“小さな一歩”
- 気になる行動を書き出してみる
- 明日から1つだけ「肯定的な声かけ」を意識する
- 近くの発達相談窓口を調べてみる
- パートナーや保育士さんに相談してみる
完璧でなくていい。まずは「知ること」「関心をもつこと」から。
親としての気づきを大切にしながら、あなたとお子さんの毎日が少しずつ心地よい方向に変わっていくことを願っています。



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